人民月報

夢はベッドでドンペリニヨン

往く猫来る猫

雄猫が亡くなった。

格好つけのヤツらしく、瘦せ細った身体でも、最期までオシッコは自分でトイレを使い、綺麗に旅立っていった。人間もこうありたいものだなあという、美しい去り方だった。

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格好つけのくせに甘えたで、おまけにドンくさいところもある、昭和のやくざ映画の三下役みたいなヤツだった。そんなヤツほど愛される。短いつきあいだったけど、ずっと忘れないだろう。

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雄猫の闘病中、悲しみに暮れてばっかりだったかというと、実はそうでもないのだ。たしかに悲しくはあったのだが、悲しんでばかりもいられない状況にあった。

兄妹の雌猫が兄と同じ病気に罹っていなかったということが、ひとつ。

それとは別に、生まれたての仔猫を育てるというミッションが、同時進行していたのだ。

 

職場で、生まれたての黒猫を拾った。というか、保護した。仕事中、何か微かにミーミー言う声が聞こえたので地面を良く見てみたら、そこに10センチくらいの黒い生き物が「いた」のだ。周囲には母猫もきょうだい猫も見当たらず、保護する以外に選択肢はなかった。

 

時系列は、こうだ。

10/29 トモヤ職場で仔猫を保護。動物病院へ連れていくが、生まれたてで恐らく初乳を飲んでいないため、発育は厳しいかもしれないと診断される。

11/1 雄猫、餌をあまり食べないため、病院へ。このときは風邪と診断される。その後も元気のない状態が続くが、新参猫が来たことによるストレスかもしれないと思い、様子を見ていく。

11/10ごろ 雄猫、雌猫、黒猫の3匹飼いは厳しいため、知人伝いに黒猫好きな方に飼ってもらえないか、打診してもらう。

11/17ごろ 検討してもらっていた方から、住宅事情により飼えなくなったと返答をいただく。

11/19 雄猫、体調が戻らないため、再び病院へ。悪性リンパ腫が発覚する。もう長くないと告げられる。

12/8 雄猫、亡くなる。

 

この間にも、仔猫は定期的に病院に連れて行った。

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初めは言葉を選んでいた院長先生も、連れていくたびに猫らしくなっていく様子を見て、「おお…」と感嘆されていた。まだ生育は標準体重よりもずいぶん少なめという事なので、どうなるかはわからないのだが、今のところ、何もなければ、次の通院は年明けで大丈夫と言われている。

 

ところで、時系列を黒猫目線から見て感じるのは、悪運と言ってもいいほどの収まりの良さだ。元来は飼いきれないので里子に出そうとされていたのが、話がなくなった直後に雄猫の病気が発覚し、1匹残されてしまう雌猫のためにも、なんとか育てあげ、我が家で飼えるようにと、大きな方針転換となった。

正直、黒猫ということもあり、俺は良からぬものを家に持ち込んだのではないかと、頭の隅で思ってしまっていた。雄猫の生命力が、黒猫に移っていくようにも感じられた。

だけど、家族も、この話を聞いた人たちも皆、この黒猫が来てくれたおかげで、病気の猫の事だけを考える時間が少なくなって良かったと、そう言ってくれた。実際、レントゲン写真に写った雄猫の肺にできた腫瘍の大きさも、とても半月やそこらで育ったものではないそうだ。ともかくこの1ヶ月、痩せていく猫、育っていく猫、そしておこぼれのちゅーるを貪り太っていく猫、の3猫の間で家族は翻弄され、とても悲しみの底に横たわってなどいられなかったのだ。

 

嫁は、ずっと空白のままだった動物病院の診察券の名前欄に、黒猫の名前を書いた。

ネロ。黒猫なので、ネロと名前をつけた。

手元に太めのなまえペンしかなかったので、そのペンで書いた。

「なあこれ、ネロって読める?」

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水口。

どう見ても水口です。本当にありがとうございました。