人民月報

夢はベッドでドンペリニヨン

優勝の日

阪神がホームでヤクルトに大勝した。ヤクルトに追い上げられての良い思い出は少ないが、今年はしぶとい。最後まで食いついてほしいものだ。

 

生まれてこの方、阪神が優勝したのは1985年、2003年、2005年の3回。なかでも良く憶えているのは、2003年だ。この年も最後に追い上げてきたのはヤクルトだった。

この時俺は、大阪の居酒屋で働いていた。前半戦独走した阪神が優勝目前で足踏みし、マジック2で迎えた甲子園のデーゲーム広島戦。赤星憲広のライトオーバーのサヨナラタイムリー、星野監督が赤星を抱きしめる。この時点でマジックは1になった。仕込みもそこそこに、気の早い常連客とテレビで観戦していた店内はお祭り騒ぎだ。

だけど、つい先ほど表示された、2時間遅れの16時プレイボールの横浜スタジアムの横浜×ヤクルト戦の速報では、マジック対象チームのヤクルトが、2回で早々に4-0とリードしていた。今日は、マジック1のままだ。胴上げは明日に持ち越しだ。

と、思った瞬間、サンテレビの画面に、再度横浜スタジアムの速報が表示された。

 

4裏 YS4-8YB

 

何があった。

アカン。優勝してまう。

急に現実が襲ってきて狼狽えた俺は飲みかけのジョッキを空け、気持ちを鎮めるためにトイレに駆け込んだ。ダメだ。手がガタガタ震える。弾道が定まらん。

 

この後、甲子園のスコアボードは横浜スタジアムの試合経過を表示し、オーロラビジョンも横浜×ヤクルト戦の映像を中継するという、ちょっと異常な状況になったと記憶している。サンテレビもその様子を生放送し、横浜スタジアムでの9回2アウトに対して、甲子園で「あと一球」コールが沸き起こった。

大阪の居酒屋のテーブルの上には、もう半月もまえから、この時のための祝賀アイテムが鎮座していた。西宮市浜町1番1号、白鷹酒造謹製の一斗入り菰樽だ。これ以上めでたいものがこの世にあろうかというビジュアルだ。

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18リットルの暴力

テーブル周りはもう常連客でいっぱいだ。

皆、この瞬間を18年間待ち続けたのだ。

横浜スタジアムがゲームセットになった瞬間、店長と他何人かの常連客が、バットで樽の蓋を叩き割った。

 

ザパア

 

樽からあふれ出した日本酒の津波が、テーブルの最前列に座っていた幼稚園児の男の子を直撃した。

あとで知ったのだが、ああいう時は先に蓋を開けて、3分の1くらい中身を減らしておくものらしい。

頭のてっぺんからつま先まで日本酒びたしになった男の子は、「阪神ファンも酒飲みも死んでまえー!」と泣き叫んでいた。あれからまた18年経った今、彼は今年のペナントレースをどんな思いで見てくれているのだろうか。